「『光』や『時間』、『言葉』や『心』さえも操る存在があるとしたら、どんな存在だと思う?」
   が首を傾げた。近くには暖炉。両手の中にはすやすやと赤ん坊が眠っている。
  も首を傾げた。
 首を傾げた に二コリと笑いかける  は、優しい笑顔だった。
「かみ」
「かみさま?」
「そう、かみさま。かみさまはね、人を選ぶの」
「選ぶの? 選ばれるとどうなるの?」
「選ばれるとね」
   の表情が悲しそうだと思った。
 はさらに首を傾げる。  によく似た、青い瞳。
「死ななくなるの。死んじゃいけないの。生きる場所も選べないで、選ばれた理由のままに生きることになるのよ」
  の声は歌うように美しかった。悲しそうに細められた瞳も、魅力を増すだけのものにしか感じられない。
「……幸せなのかしら? かみさまも、選ばれた人も」
  は、後に来る悲劇の後も、この言葉を決して忘れなかった。


 真っ赤な霧だった。 が森を進めど進めど、時が経つごとに赤色は濃くなっていく。
「かあさまっ!」
  は必死に叫んでいた。幼い足で必死になって霧の中を駆けていた。傍らにははに託された妹の姿はない。
「お願い、かあさま!」
 幼い高い声が、割れそうなほどに叫んでいた。深い森の中だった。太い木の根に躓きながらも進む、走る。
  の背後に大人の男が現れた。拾い上げて抱きかかえて、諭すように名を呼ぶ。
  は、首を激しく横に振った。
「離して! 離してよ!」
「だめだ。約束だ」
「かあさまを助けに行くんだ、離して!」
「だめだ。お前にも約束があったはずだろう?」
 ぽろぽろと、 の両目から涙が零れ落ちる。真っ赤な霧の向こうを見つめて、甲高く悲鳴を上げた。
「かみさまを殺さないで! お願いかあさま!」

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