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どうして俺調べちまったんだろう。
好奇心なんてもの、なければよかった。注意力なんてもの、なければ。
空を駆ける天馬なんかに目がいかず、天馬に乗る男になんか、気がつかなかったのに。
天馬詩。
天馬騎士は死ねば天馬になるという。残した心が力となり、プラ・ヴィーンが形を与えて空へ放つ。天馬の色、すなわち心の色。
天馬騎士セフィ・ガータージ。
一年前の戦いで戦死したマウェートの総統指揮官。商人たちの噂話には、同じく戦死したマウェートの王子デリクと良い仲だったらしい。けれど公には認められない、身分も出身国も違う、不幸な恋。
囃し立てる人びとの噂の、最後はこう締めくくられる。
『二人とも死体が見つかったわけじゃない。もしかしたら生きていたのかも。二人で俗世から離れて、暮らしているのかも』と。
ただのおとぎ話でしかないのに。何故か気になって、さらに調べた。
セフィ。
天馬をそう呼ぶデリクという男。カタンと人目を避けて話していた。
この時はカタン総司令に見つからなかったけれど、別から視線を感じた気がした。見ていたのを、見られていたのかも。
さらに調べて知った。
知ってはいけないこと。
プレゼリア討伐の理由。討伐後のプレゼリア。
天馬に乗るデリクとは? カタンがいなくなった数日間の、不審な目撃情報。
何度も途中で止めたくなったけれど、止めたらいけない気がした。止めたら余計に不安なままな気がしたから。
そんな恐怖心なんてものに、負けなければよかったのに。
カタン・ガータージが――最高等兵士が裏切っていたなんて。裏切って、デリク・マウェートを助けただなんて、知らずに済んだから。
きっとプレゼリア繋がりの傭兵たち。
俺、死ぬかな、殺されるのかも。
カタン総司令のために来たのだと言うなら、ウィアズに恨みを持っているのなら。
もしかしたら、殺されるのかも。総司令の裏切りを知っている危険分子は。
………。
……なあ?
この世界で何を信じる? 世界の何を信じていい?
国?
天魔の獣たち?
仲間?
上司?
家族?
それとも自分?
結局何一つ信じることなんてできないんじゃないのか?
でも、それでも、何か信じたいって思うから。だから。
なあ、エアー。
俺は、お前の存在だけを信じるよ。
帰ってくるって言ったの、信じて待ってた。本当に帰ってきた。約束したのは俺じゃないけど。
裏切らなかった、お前だけは信じる。
……だから、存在、し続けてほしい。ずっと、ずっと。
ずっと――ずっと、ずっと、ずっと―――。
お前の存在だけはずっと―――――。
だって、消えるのは本当に、本当に怖いから。
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