78.“信じる”、それは祈り
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 どうして俺調べちまったんだろう。
 好奇心なんてもの、なければよかった。注意力なんてもの、なければ。
 空を駆ける天馬なんかに目がいかず、天馬に乗る男になんか、気がつかなかったのに。

 天馬詩。
 天馬騎士は死ねば天馬になるという。残した心が力となり、プラ・ヴィーンが形を与えて空へ放つ。天馬の色、すなわち心の色。
 天馬騎士セフィ・ガータージ。
 一年前の戦いで戦死したマウェートの総統指揮官。商人たちの噂話には、同じく戦死したマウェートの王子デリクと良い仲だったらしい。けれど公には認められない、身分も出身国も違う、不幸な恋。
 囃し立てる人びとの噂の、最後はこう締めくくられる。
『二人とも死体が見つかったわけじゃない。もしかしたら生きていたのかも。二人で俗世から離れて、暮らしているのかも』と。
 ただのおとぎ話でしかないのに。何故か気になって、さらに調べた。
 セフィ。
 天馬をそう呼ぶデリクという男。カタンと人目を避けて話していた。
 この時はカタン総司令に見つからなかったけれど、別から視線を感じた気がした。見ていたのを、見られていたのかも。

 さらに調べて知った。
 知ってはいけないこと。
 プレゼリア討伐の理由。討伐後のプレゼリア。
 天馬に乗るデリクとは? カタンがいなくなった数日間の、不審な目撃情報。
 何度も途中で止めたくなったけれど、止めたらいけない気がした。止めたら余計に不安なままな気がしたから。

 そんな恐怖心なんてものに、負けなければよかったのに。

 カタン・ガータージが――最高等兵士が裏切っていたなんて。裏切って、デリク・マウェートを助けただなんて、知らずに済んだから。


 きっとプレゼリア繋がりの傭兵たち。
 俺、死ぬかな、殺されるのかも。
 カタン総司令のために来たのだと言うなら、ウィアズに恨みを持っているのなら。
 もしかしたら、殺されるのかも。総司令の裏切りを知っている危険分子は。


 ………。





 ……なあ?


 この世界で何を信じる? 世界の何を信じていい?

 国?
 天魔の獣たち?
 仲間?
 上司?
 家族?
 それとも自分?

 結局何一つ信じることなんてできないんじゃないのか?
 でも、それでも、何か信じたいって思うから。だから。


 なあ、エアー。


 俺は、お前の存在だけを信じるよ。



 帰ってくるって言ったの、信じて待ってた。本当に帰ってきた。約束したのは俺じゃないけど。
 裏切らなかった、お前だけは信じる。


 ……だから、存在、し続けてほしい。ずっと、ずっと。


 ずっと――ずっと、ずっと、ずっと―――。
 お前の存在だけはずっと―――――。



 だって、消えるのは本当に、本当に怖いから。


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