76.流れる月日、節目の時に

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 高等兵士になったんだったら、日付ぐらいは正確にわかったほうがいいと持たされたカレンダー代わりのメモ。一日の終わりに日付に穴を開けていく。
 今夜は十一番目の月の最後の日付に穴を開けた。明日の夜には十二番目の月が空に浮かぶ。
 十二番目の月が浮かぶと、俺は自分が赤紫の眼を持っていることを思い出す。思いだすことを思い出してため息をついた。
 十二番目の赤紫色の月は一番嫌いな月。自分の瞳も暗闇の中ではああやって見えるらしいから。
 だからかも。
 十二番目の月になると、必ず見る夢。
 二四の天魔の獣たちがそろって俺を責め立てて、目が覚めると誰の目にも映りたくなくなる。
 自分の存在を、消してしまいたくなる。
 どうせ世界は自分なんかを置き去りにして動いていて、気がつくと全部なくなっている。
 さっきしゃべったの、誰だっけって。
 さっき一緒に笑ったの、誰だっけって。
 見覚えはあるけど、しばらくしたらきっと姿を見せなくなるんだろう。
 だったら、いいか、って思う。覚えなくても。
 自分も覚えられてないといいな。
 全部元からなかったみたいに、消えてしまうんだ。あの時誰もいなかったみたいに。
 それを誰もが、当たり前にしていたように。


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