|
■□■□●
高等兵士になったんだったら、日付ぐらいは正確にわかったほうがいいと持たされたカレンダー代わりのメモ。一日の終わりに日付に穴を開けていく。
今夜は十一番目の月の最後の日付に穴を開けた。明日の夜には十二番目の月が空に浮かぶ。
十二番目の月が浮かぶと、俺は自分が赤紫の眼を持っていることを思い出す。思いだすことを思い出してため息をついた。
十二番目の赤紫色の月は一番嫌いな月。自分の瞳も暗闇の中ではああやって見えるらしいから。
だからかも。
十二番目の月になると、必ず見る夢。
二四の天魔の獣たちがそろって俺を責め立てて、目が覚めると誰の目にも映りたくなくなる。
自分の存在を、消してしまいたくなる。
どうせ世界は自分なんかを置き去りにして動いていて、気がつくと全部なくなっている。
さっきしゃべったの、誰だっけって。
さっき一緒に笑ったの、誰だっけって。
見覚えはあるけど、しばらくしたらきっと姿を見せなくなるんだろう。
だったら、いいか、って思う。覚えなくても。
自分も覚えられてないといいな。
全部元からなかったみたいに、消えてしまうんだ。あの時誰もいなかったみたいに。
それを誰もが、当たり前にしていたように。
●●○○■■□
| |