67.ドアの前にて

   隊ごとに決まっている食事の時間、三番隊の昼食の時間は大体十一時半ぐらいから、十二時ぐらい。入れ替わりが激しいために他の隊と入り乱れる時間がある。
 城で出される食事は時間が決まっているが、どの隊も昼休みの時間は長い。城下でも軽くなら食事が摂れる程度の時間はある。
 エアーが所属する三番隊も同じくだ。大抵エアーは三番隊の食事時間が始まるぴったりに食堂に行って、食べてすぐ出てくる。だからかなり時間が余ったのだ。
 クォンカに指定された時間は十三時半。
 自分の部屋に戻ってある程度身なりを整えて、指定された第二小会議室前についたのは十三時。
 三〇分も余った。
 さてどうしようかな、とエアーは第二小会議室からほど近い中庭のベンチに座って考えた。
「なあ、エアーって剣士じゃないか?」
 呼ばれてエアーが振りむいた。ちょうど中庭に降りてきたところの男が一人。帯剣もしていなければ弓も持っていない。騎士のどれかだろうと、身なりを見るとわかる。ブーツがかなり長いところを見れば、おそらく地上の騎士だ。
「……だけど」
 少しぽかん、としてエアー。騎士に呼ばれるほど有名なわけではなかったから。クレハの友人だろうかと考えた。
「やっぱりだ。話に聞いてた通りの背格好だから、よくわかったよ。俺は騎士のミレイド・テースク」
「あぁ、どうも」
 片手を差し出されて、ぽかんとしたままエアーは立ちあがってミレイドと名乗った騎士と軽く握手を交わす。
 ミレイドは心底安心したような表情。
「先輩方二人は、気安いんだけど気おくれがしてたんだ。エアーで安心したよ」
「何が? お前も手伝いなのか?」
「手伝い?」
 ぽかんと、しかえしてミレイドが。
 数秒白い間が空いた。
 空いた間の間に、ミレイドの顔が苦々しく歪んだ。
「ち、違うんだ。気にしないでくれっ」
 声が裏返った。声にエアーが思わず失笑。
「いいけどよ」
「助かる。忘れてくれ」
 苦笑になったミレイドが言いながらポケットの懐中時計を出した。時間を確認して、一つため息。
「もう少し話したいところだけど、そろそろ統合部署前の会議だ、戻らなきゃ……」
 ふう、とミレイドから再び思わずため息が出るのに、エアーが悪戯に笑う。どうやらミレイドは戻るのが鬱で仕方がないらしかった。
「ま、がんばれよ」
 統合部署に出られるのは、高等兵士以上、もしくは隊長代理。騎士の高等兵士は有名だったから、ミレイドは否応なく隊長代理だろう。高等兵士という肩書がないだけで、なんとなく気安かった。
「んでちなみに、今何時なんだ?」
「十三時二〇分。隊に戻らなくて平気か?」
「おう。用事で来てんんだ。十三時半に第二小会議室でさ」
「あぁ、セイト様か」
 なるほどね、と呟いて、ミレイドのエアーを見る眼が一瞬だけ憐れみになった。なんだよとエアーは思ったが、ミレイドはエアーが口に出す前に軽く踵を返した。
「じゃあまた、後で」
「会うことがあったらな」
 ミレイドを見送って、エアーは軽く肩をすくめた。
 変な奴、と。
 違う隊の人間が関わることなんてほとんどないのに。
(ま、いっか。とりあえず、俺もそろそろいくかな)
 一息、大きく息を吐き出してエアーはセイト・ウィアズが待つ第二小会議室へ向かった。軽く服装を整えてから、ドアをノックする。

「誰だ?」
  
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