62.二対二

  「おおおおっ!」
 雄たけびを上げて竜騎士シリンダ・ライトルが大槍を振る。敵の槍にぶつかれば、易々と敵の手から槍が飛ぶ。槍を失って無防備になった敵の身体に短い投げ槍が突き刺さり、敵は絶命。槍の主は投げ槍の名手、シリンダの副官ユーサー・リーブだ。
「シリンダさん! 相手の総統司令官の顔、覚えてますか?」
 長槍を構えて、ユーサー。シリンダはいつも通りのぼんやりとした表情で、「もちろん」と答えた。
「じゃああの悠々と進んでくるあれ! ロウガラさんに任せっぱななしにするつもりですか?」
 ユーサーがやはり叫びながら、竜に合図する。手綱を握りながら急降下。同じくシリンダも急降下する。上を、矢が通り過ぎた。
「ロウガラさんの隣にいるのが誰だと思ってる!」
 怒鳴った、がシリンダの表情はやはりぼんやりとして見える。――生来の顔、なのだ。
「俺の妻だ! 助けに行かないわけがない!」
 あはは、と楽しげにユーサーが笑った。
「そう言うと思った。手伝いますよ、隊長」
「あぁ」
 シリンダも微かに笑った。
 天空隊が少ないほどの低空で、二人は地面に対して水平になった。低空を竜につかまり滑空する。
「んにしても、血って偉大だよなあ」
 上空から血が降る。その下でユーサーが気を紛らわすように呟く。シリンダは首をかしげた。
「カタン最高等兵士も、その姉も。やっぱりなんだかんだでネルヴィス・ガータージの子供ですもん。強いっすよねー、カタンさんも」
「俺が聞いたところによれば、だけど」
 竜の首をたたいてシリンダ。竜が上昇を始めた。
「血なんてものに頼ってたら、落ちぶれるだけだ、結局は自分自身の努力と意思次第だって、親父がなあ」
「あぁ。流石ライトル家」
 はは、とまたユーサーは笑って、髪から滴る雨水を、少しだけぬぐった。だが拭ったところで、雨水は流れてくる。かわりはない。
「要するに、勝つための努力は怠るなってことですね。勉強なるなぁ、隊長ん家の家訓」
「窮屈なんだけどなあ」
 あはは、とシリンダは無理矢理に笑った。槍を強く握り、表情を少しだけ厳しくする。
「そういうことで、勝つための休憩終わり。行くぞ、ユーサー!」
「はい!」
 ユーサーも気合を込めて返答する。
 二人揃って急上昇。ふたりの姿に気がついたロウガラが、ち、と舌を鳴らした。
「面白がって戦場に立つやつが来ると、ろくなことにならないねえ!」
 目の前まで迫る、敵の司令官のふたり。デリクとセフィ。
「貸しだからね! シリンダ!」
「もちろん借ります! ロウガラさん!」
 シリンダがロウガラの高さを超えて槍を構えた。ロウガラが同じく前を睨み据えて槍を構える。ほぼ同時に、ユーサーがロウガラの副官レッカを伴ってふたりの傍から離れた。
 シリンダが雄たけびを上げる。竜が前に動き出せば、ロウガラの天馬も同じ速さで前に進んだ。
 いつのまにか二人の前には、二人のみ。
 デリク・マウェートとセフィ・ガータージとの二対二の対決が、いつのまにか用意されていたのである。
  
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