25.間奏曲、始まり

   強くなることを決めた。
 エアー・レクイズはクレハと旅に出てから、さまざまなことをクレハから学んだ。実を言えば世間知らずのエアーである。夏の出発から順に。
 巨大都市ヴァンジティ。
 宿場町ネンデダック。
 学園都市テレベンタレス。
 美しい森の町テンド。
 ――ドワーフの山村イリスベ。
 ウィアズ王国領内にあるテレベンタレスから森の国境を抜けるとウィアズ王国に属する小さな国があり、この国を抜けるとブシュヘルム共和国がある。
 イリスベはさまざまな民族が住まうブシュヘルム共和国の中でも、特に有名な土地だ。高名な鍛冶士が何人も住まい、良質の鉱石が採掘される。
 そういう類の街の知識だとかも学んだものの一つ。民族がウイズ族だけでないことを教わったのも一つ。旅の心得、馬の乗り方、森の歩き方、山を登るときの心得。一人で眠る時の獣対策。
 本当に様々なこと。剣士として強くなるだけならば必要ないように思えることでも、エアーは結局素直に学んだ。
「強くなって、ついでに大人になる」
 毎日欠かさない素振りをしながら、エアーが夜中に言った。
「生きられる、大人になる」
 クレハは地べたに横になって機嫌よく笑った。
「お前大人になんの、楽しみだな」
 イリスベは山の麓にある。
「じゃ、明日イリスベ着いたら、いいとこ連れてってやるよ」
 クレハが悪戯に笑って言った。空には十二番目の月が浮かんでいた。
  
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