0.ことの始まり

   ウィアズ王国歴四九年、冬。ウィアズ王国北部「雪降る平原(スノータイラー)」に落星あり。衝撃は遠くの土地にまで地震として広がった。
 奇妙な落星だった。
 ただの巨大な平原だったスノータイラーは落星により姿を変えた。落ちた星が崩れて山となり、土の質が変わってしまった土地が湿地となり。スノータイラー傍にあった森の木々が異常に発育されて、樹海へと姿を変えた。
 スノータイラーは小さくなった。森に浸食され、湿地ができた。
 多くの人間が死んだ。
 ウィアズ国王は、「これはマウェートの陰謀だ」とした。マウェート王国も「ウィアズの全世界に向けた戦線布告だ」と。まったくの濡れ衣である。当時から犬猿の仲の二国だ。この事を発端に、二つの国の争いは本格化する。
 南北大戦と呼ばれる二つの国の全面戦争が、まさに始まるのである。


 南の大国、ウィアズ王国。齢は百年にも満たない。元は未開の土地だったものを、世界第二の歴史を持つレセダン王国の民が、未開の土地に住む奇獣を倒し、広い土地を開拓したことが起源である。開拓民のリーダーは後に国王となり、共に戦い開拓を推し進めた人間は各地に散り、町を作り、富んだ国の礎となる。彼らは爵位をいただき領主となった。
 開拓民全員が、士であったと言われている。
 元レセダン王国聖騎士団所属騎士、ニルロン・アントアは周辺の騎馬民族と共に、スノータイラーに程近い森の中に美しい街並みを持つベリュを作る。
 実力ある剣士でありながら商才もあったと言われるヴァン・エンパルは、大河の傍に街を作る。運河を利用した商人たちのこの街は、瞬く間にウィアズ王国最大都市となる。名をヴァンジティ。
 弓士タレス・マルガレート。「敵を調べろ、状況を知れ」口癖のように「知れ」を繰り返した彼は学士でもあった。故に未開地に住む人々の学力の低さに嘆き、民間向けの学校を作るのである。彼が創った学校のまわりに多くの学校、通うために集まった人々の住む家々が作られ、よって周辺は街になった。彼の名を使い、世界に名高い学園都市の名をテレベンタレスという。
 天馬騎士エレナ・ファナは、自分たちを率いていた人物を愛していたのだと言われている。身を引いた彼女は、故郷レセダンを臨む場所に国境を築くために街を作る。高き城砦の町アロル。
 竜騎士レジャー・ライトルと賢者と呼ばれた魔道士メリジョ・バンダーは街を作らなかったが、自らを率いた王の傍に控え、国の発展に力をつくし、土着民族ウイズ族との融和に尽力し続けた。
 多くの仲間が多くの街を造り上げ、そして時はウィアズ王国歴五五年。
 初代国王が作り上げた王国軍は、世界に名高い軍となっていた。六つの士がそれぞれ小隊を築き、六つが集まって大隊となる軍。志願制ではあれども、兵士は年々増えるばかりで減ることは滅多にない。
 この年、カタン・ガータージがウィアズ王国軍の見習兵士としてウィアズ王国に所属した。後に彼は『黒い竜騎士』と呼ばれ、ウィアズ王国軍の最高峰の地位最高等兵士に昇格し、称賛と畏怖の二つを受けることになる。
 階級の少ないウィアズ軍だが、故にこそ上の階級になるのが難しいという難点があった。それも小隊を率いる高等兵士以上になれば、その階級、その名、その通り名、一つ聞いただけでも他国の兵士たちが震えあがるほどの実力が必要なのだと言われていた。
 何千何百という兵士の中からほんの十数名だけが選ばれる高等兵士。最多でもたった六人の最高等兵士。
 人は様々に言えど、現実には彼らも確かに人間だった。
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